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東京地方裁判所 昭和61年(行ウ)176号 判決 1987年12月16日

原告

森友義

右訴訟代理人弁護士

塩谷順子

塩谷國昭

被告

杉並税務署長

塚本時朗

右指定代理人

岩田好二

中島和美

佐藤康一

中村勝樹

鈴木政之

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告がした次の各処分を取消す。

(一) 原告の昭和五七年分の所得税についての昭和六〇年一〇月三一日付けの更正

(二) 原告の昭和五八年分の所得税についての昭和六〇年一〇月三一日付けの更正

(三) 原告の昭和五九年分の所得税についての昭和六〇年七月三一日付けの更正及び同年一〇月三一日付けの過少申告加算税賦課決定

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  処分の存在及び不服審査手続の前置

原告は、昭和五七年ないし昭和五九年分の所得税について、別表一ないし三の確定申告の項記載のとおり、確定申告(以下それぞれ「昭和五七年申告」、「昭和五八年申告」及び「昭和五九年申告」といい、併せて「本件各申告」という。)をした。

被告は、原告の昭和五七年及び昭和五八年分の所得税について別表一及び二の更正の項記載のとおりの更正(以下それぞれ「昭和五七年更正」及び「昭和五八年更正」という。)並びに昭和五九年分の所得税について別表三の更正・賦課決定の項記載のとおりの更正(以下「昭和五九年更正」といい、これと昭和五七年更正及び昭和五八年更正とを併せて「本件各更正」という。)及び賦課決定(以下「本件決定」といい、これと本件各更正とを併せて「本件各処分」という。)をした。

原告は、本件各処分について、別表一ないし三の各異議申立て、同決定、審査請求及び同裁決の項記載のとおり不服審査手続を経由している。

2  扶養親族について

所得税法八四条は、居住者が扶養親族を有する場合には、扶養控除をする旨を規定しているが、右にいう扶養親族は、次のとおり民法上の親族に限らず、納税義務者が事実上の子を現実に扶養していれば、事実上の子についても扶養控除が認められるべきである。

(一) 扶養控除は、人的控除の一種といわれている。人的控除の趣旨は、本人及びその家族の最低限度の生活を維持するに必要な費用は担税力を持たないという考えから、最低生活費、基準生計費ないし標準生計費に対応する部分を課税対象外におき、納税義務を免除しようとするものであり、租税法における憲法二五条の生存権保障の表れといわれている。これを扶養控除についていえば、納税義務者に扶養すべき家族がいる場合、その家族の最低生活費、基準生活費ないし標準生活費に対応する部分については担税力を認めず、課税の対象外におこうとするものである。扶養控除の根拠は「扶養」にあり、所得税法八四条の扶養親族を民法上の親族に限定して理解すると、納税義務者が事実上の親族を扶養している場合には、右の扶養控除制度の趣旨と矛盾する。

また、所得税法二条一項三四号によれば、居住者の親族と並んで児童福祉法二七条一項三号により里親に委託された児童及び老人福祉法一一条一項四号により養護受託者に委託された老人も扶養親族としていることから、扶養控除の対象となる親族は、法律上の身分関係そのものが対象とされていないことが読み取れる。

したがつて、所得税法八四条一項にいう親族とは、扶養を受ける者の例示と解すべきであり、現実に扶養されている事実上の親族も、扶養控除の対象となる扶養親族に当たると解すべきである。

(二) 民法は、婚姻について届出主義を採用している。しかし、届出をしていないが、婚姻関係と同様の関係にある事実上の婚姻関係は、相互の扶養義務、婚姻費用の分担義務、日常家事債務の連帯責任等の法的関係も婚姻と同様にあるとされるなど、身分法の分野では、届出を経た婚姻関係とほぼ同様の法的関係があるものとされている。

事実上の親子関係は、事実上の婚姻に必然的に付随するもので、事実上の婚姻と同様に、法律上の親子関係とほぼ同様の法的関係があるものと考えられる。健康保険法一条二項三号、日雇労働者健康保険法三条、厚生年金保険法六三条一項三号等においては、事実上の親子関係についても法律上の親子関係と同様の取扱いがされており、法律上もこのことが承認されている。そして、事実上の親子関係がある場合には、単に認知などの法的手続をとらないだけで、生活実態における扶養関係は法的手続をした者と全く異なるところはなく、その扶養は好意や倫理上のものではなく、明らかに法的なものである。現に、事実上の父子関係にある場合に父には子の扶養義務があるとし、あるいは事実上の養親子関係にある場合には相互に扶養義務があるとした裁判例もあるのである。

また、児童扶養手当法三条三項、四条二項七号によれば、母が事実上の婚姻関係にある場合には、児童扶養手当は支給されないこととされている。

さらに、原告と事実上の婚姻関係にある藤本早苗(以下「早苗」という。)と原告との間の子藤本心(昭和五七年一一月二七日生。以下「心」という。)は現在杉並区内の保育園に通園しているが、児童福祉法五六条によれば、その保育料は扶養義務者から徴収することとされ、その額は同一世帯に属する扶養義務者の所得税額を合算した額を基準に決定されるとされているところ、杉並区長は、心の母である早苗の所得税額と原告の所得税額とを合算して決定しており、ここにおいても、事実上の父である原告に心に対する扶養義務があるとされている。

したがつて、扶養については、法律上の親子関係と事実上の親子関係を区別する理由はないから、所得税法八四条にいう扶養親族には、事実上の子も含まれるというべきである。

(三) 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「国際人権規約A規約」という。)一〇条1は、家族に対して、特に扶養児童の養育に責任を有する間に保護及び援助が与えられるべきことを、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「国際人権規約B規約」という。)二三条1は、家族は社会及び国による保護を受ける権利を有することを規定しているが、租税上の減免措置は、その具体例と解されている。

また、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(以下「女子差別撤廃条約」という。)一六条1dは、親の子に対する責任は親が婚姻しているか否かを問わないと規定している。

法的手続(親の婚姻、子の認知及び養子縁組の届出)をとつていない事実上の子に対して扶養控除を認めない解釈は、右各条約の各規定に反するものである。

さらに、児童が出生の事情如何を問わず同等の取り扱いをされるべきであることは、憲法一四条、児童福祉法等の定めるところであり、国際人権規約A規約一〇条3及び国際人権規約B規約二四条1にも規定されているところであり、扶養親族に事実上の子を含めない解釈は、右の各規定に反するものである。

したがつて、所得税法八四条の扶養親族には、事実上の子も含まれるというべきである。

(四) 法律上の子と事実上の子とは、単に親の婚姻、子の認知等の届出といつた法的手続をしていないことが異なるだけで、生活実態に違いはないから、所得税法八四条が、婚姻、認知等の届出といつた法的手続をとつた場合にのみ扶養控除を認め、そうでない事実上の子につき扶養控除を認めないものであれば、その限りで、同条は憲法一四条に違反するものである。

(五) なお、徴収事務の手続上の必要から法律上の親族のみを扶養親族とする合理性があるとする議論は、実質的な内容よりも、手続を優先させるもので、本末転倒の議論である。

また、事実上の親族関係の有無は、生計を一にする生活実態により容易に判明するものであるし、その判断は毎年一二月末日の現況によりすればよいもので、事実上の親族関係の始期の確定までも要するわけではなく、その認定が特に困難とはいえないから、理由のないものである。

3  原告の扶養親族

原告は、昭和五七年一一月一〇日から、早苗と事実上の婚姻関係にあり、また、早苗の子である藤本績(昭和四七年五月二九日生。以下「績」という。)、藤本要(昭和四九年九月一三日生。以下「要」という。)、藤本匠(昭和五二年一一月六日生。以下「匠」という。)及び心(以上の四人の子供を併せて単に「四人の子」という。)とも同居し、原告、早苗及び四人の子は生計を一にし、原告及び早苗が四人の子を養育している。

四人の子のうち、心は、原告が認知していないが、原告と早苗との実子であり、原告と事実上の親子関係がある者である。また、その余の三人は、原告の事実上の配偶者である早苗の実子であるから、事実上の姻族一親等の地位にあるものであり、やはり、事実上の親子関係にある者に当たる。

したがつて、四人の子は、原告の事実上の子として、扶養控除の対象となるべき者である。

4  本件各処分の違法性

原告は、昭和五七年及び昭和五八年分の所得税の申告においては、心一人を、昭和五九年分の所得税の申告においては、要、匠及び心の三人を扶養親族として申告しているが、本件各処分は、要、匠及び心を原告の扶養親族とは認めず、その結果、原告の所得及び税額を過大に認定した違法なものである。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2は争う。

3  同3の事実は不知、主張は争う。

4  同4の事実は認め、主張は争う。

三  被告の主張

1  原告の昭和五七年ないし昭和五九年分の所得税の総所得金額及び扶養控除を除く所得控除額は、別表一ないし三の順号2の項(更正又は更正・賦課決定)の①総所得金額及び②所得控除額の欄記載のとおりであり、右各年度においては、原告には扶養控除の対象となる扶養親族はいなかつたから、右各年分の原告の課税総所得金額及び税額は、同項の③課税総所得金額の欄及び④③に対する税額の欄記載のとおりとなるところ、右と同額である本件各更正は適法なものである。

また、国税通則法六五条一項により、昭和五九年更正における税額二八万四二〇〇円と昭和五九年申告における税額一三万九三〇〇円の差額一四万円(同法一一八条三項により、一万円未満切捨てたもの)に一〇〇分の五を乗じた七〇〇〇円が過少申告加算税となるところ、右と同額の本件決定は適法なものである。

2  扶養親族について

(一) 所得税法八四条は、居住者が扶養親族を有する場合には扶養控除が受けられる旨を規定し、同法二条一項三四号は扶養親族の定義について、居住者の親族と定めている。

ところで、同一の用語は、特段の根拠がないかぎり同一の意味に解することが原則であるから、ある法律で単に「親族」と規定している場合には、親族関係に関する基本法である民法に定める親族(法律上の親族)を指しているものと解すべきである。

原告の内縁の配偶者の子である四人の子供との間に親族関係が成立するためには、養子縁組の届出、又は認知の届出等が必要であるが、原告は四人の子のいずれの者についてもこれらの手続をしていないから、原告と四人の子は法律上の親族に該当せず、同法二条一項三四号の扶養親族に当たらないというべきである。

(二) 法律上の親族関係にある者と事実上の親族関係にある者との間には、当事者の身分上の確定的意思に基づく各種届出の有無という点で決定的な相違があるばかりでなく、一般的にはその社会的実態の面でも安定性等に相違があることは否定できないものである。もつとも、事実上の親子関係について、各種の法律関係において、法律上の親子関係と同様の取り扱いをしている例はないわけではないが、その法律関係の趣旨、性格等に照らして、個々的に取り扱いを決してきたもので、法律上の親子関係と事実上の親子関係を法一般において同一に取り扱つてきたものではない。

そして、健康保険法一条二項三号等には、事実上の子を法律上の親子関係のある場合と同様に保護する旨の規定が存在するが、その規定の対象者を法律上の親族にかぎるか、あるいは事実上の親族関係にある者も含めるのかについては、当該法律の趣旨、目的に照らして定められているところであり、事実上の親族関係にある者を含める場合には、必ずその旨の明文の規定が存在しているのである。

したがつて、その旨の明文の規定のない所得税法二条一項三四号にいう親族は、法律上の親族に限られることになる。

(三) 国際人権規約A規約及びB規約並びに女子差別撤廃条約の趣旨、内容と、納税義務者の税額を算定する一過程にすぎない扶養控除との間には特段の関係はないから、右各条約を根拠として、扶養親族には事実上の親族も含まれるとすることはできない。

(四) 扶養控除の対象となる親族を法律上の親族に限らず、事実上の親族も含めるとした場合には、その事実認定自体困難を伴うことで、大量かつ回帰的に行われる租税の徴収においては、技術的又は量的に担当の困難を招来し、ひいては租税徴収費用の増加を来し、税務執行上も混乱を生じさせることも予想されるのであり、扶養控除の対象となる親族を法律上の親族に限ることは、租税の徴収を確実、的確かつ効率的に行うための必要性から、合理性のあるものである。また、法律上の要件を備えた法律上の親子と事実上の親子の間には、例えば、民法八七七条に定める扶養義務があるか否か等、その安定性、法的規制及び保護等に種々の相違があるから、法律上の親子と事実上の親子を法律上異なつた取り扱いをする十分な合理性がある。

したがつて、扶養控除の対象を法律上の親族に限るとする所得税法八四条の規定は憲法一四条には違反しないものである。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1のうち、原告の総所得金額及び扶養控除を除く所得控除額が被告の主張のとおりであることは認め、主張は争う。

2  同2は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1(処分の存在及び不服審査手続の前置)の事実並びに原告の昭和五七年ないし昭和五九年分の所得税の総所得金額及び扶養控除を除く所得控除額が別表一ないし三の順号2の項の総所得金額及び所得控除額の欄記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二本件の争点は、原告の昭和五七年及び昭和五八年分の所得税について、心が、昭和五九年分の所得税について、要、匠及び心の三人(以下「三人の子」という。)が扶養控除の対象となる扶養親族に該当するか否かであるので、以下この点につき判断する。

1  所得税法八四条は、居住者が「扶養親族」を有する場合には、扶養控除をする旨規定し、また、同法二条一項三四号は、扶養親族とは、「居住者の親族(ただし、配偶者を除く。)」並びに児童福祉法二七条一項三号の規定により同号に規定する里親に委託された児童(以下「里子」という。)及び老人福祉法一一条一項四号の規定により同号に規定する養護受託者に委託された老人(以下「委託老人」という。)でその居住者と生計を同一にするもののうち、所得税法二条一項三三号イないしニに掲げる者をいう旨規定している。

ところで、原告が居住者であること、三人の子が里子又は委託老人に該当しないことは弁論の全趣旨に徴し明らかであり、また、三人の子が原告と事実上の婚姻(婚姻届出を経た法律上の婚姻ではないが、事実上それと同様に事情にあるものを指す。以下同じ。)に係る配偶者(以下「事実上の配偶者」という。)である早苗との間の未認知の子又は早苗の連れ子であることは原告の自認するところであるから、本件では、事実上の子(事実上の配偶者である妻との間の未認知の子又は右の妻の連れ子をいう。以下同じ。)である三人の子が所得税法二条一項三四号に規定する「親族(ただし、配偶者を除く。)」に該当するか否かが検討すべき点である。

2 ある法律において、「親族」と規定している場合に、当該法律にその定義規定を置いていないときは、特段の理由がない限り、民法上の親族を指すものと解すべきである。所得税法は、前述のように親族という用語を使いながら、それについて定義規定を置いていないから(もつとも、所得税法は、親族につき、「(配偶者を除く。)」と規定しているが、本件では三人の子が原告の配偶者でないことは明らかであるから、以下の判断において、親族から配偶者を除いて考えることとする。)、この親族という用語は、特段の事由のない限り、民法上の親族(以下「法律上の親族」ともいう。)を指すものと解される。

ところで、民法七二五条は、六親等以内の血族及び三親等以内の姻族を親族とする旨規定しているから、所得税法の親族は、特段の理由がない限り、六親等以内の血族及び三親等以内の姻族をいうものであつて、これに当たらないことが明らかな事実上の子は右の親族に当たらないものといわなくてはならない。

3  身分法の分野においては、事実上の婚姻を、法律上の婚姻に準じて取り扱うこととするのが、現在の裁判例や学説の見解であり、また、これに伴い、事実上の子についても、これを法律上の子(民法上の実子及び養子のほか、法律上の婚姻に係る配偶者の連れ子も含む。以下同じ。)に準じて取り扱うこととするのが、基本的には、現在の裁判例や学説の方向といつて差支えないものと解される。しかし、右の裁判例や学説においても、事実上の婚姻について、民法七三二条ないし七三六条に定める婚姻障害の規定の適用はないとし、事実上の婚姻又は事実上の子について、相続権はないとしたりする(なお、法律上の婚姻に係る配偶者の連れ子も、相手方配偶者の死亡による相続権はない。)など、事実上の婚姻又は事実上の子を、すべての法律関係において、法律上の婚姻又は法律上の子と全く同様に取り扱うことまでも認めているわけではない。したがつて、右に述べた身分法上の裁判例や学説の見解が存することをもつて、当然に扶養控除の対象となる親族には事実上の子が含まれるとする根拠になるものではない。

4 社会保障、社会保険などといつた行政法の分野では、健康保険法一条二項三号、厚生年金保険法六三条一項三号、児童扶養手当法三条三項等のように、事実上の子を法律上の子と同様に取扱うものとする趣旨の規定を置いているものがあり、また、健康保険法一条二項一号、厚生年金保険法三条二項、国民年金法五条四項、児童扶養手当法三条三項、母子及び寡婦福祉法五条一項、労働者災害補償保険法一六条の二第一項、国税徴収法七五条一項一号等のように、事実上の婚姻(配偶者)を法律上の婚姻(配偶者)と同様に取り扱うものとする趣旨の規定を置いているものがある。このように、右の行政法の分野では、事実上の婚姻(配偶者)又は事実上の子を、法律上の婚姻(配偶者)又は法律上の子と同様に取り扱う旨を定めた規定が少なからず存在していることは、立法者において、事実上の婚姻(配偶者)又は事実上の子を、法律上の婚姻(配偶者)又は法律上の子と同様に取り扱うべきものと考えた場合には、その旨の明文の規定を置くこととしているものと理解することができる。しかし、このことは、とりも直さず、その旨の明文の規定のない行政法規については、事実上の子を法律上の子と同様には取り扱わないとの立法者の意図が表明されているものと解する根拠となるものである。

5  所得税法二条一項三四号は、里子及び委託老人も扶養親族としているが、これらは法律上の親族ではない(ただし、里親及び里子間並びに委託老人及び受託者間に民法上の親族たる関係がある場合を除く。)。しかし、これらは、同法の明文の規定で扶養控除の対象となるものとされているのであるから、これらが、法律上の親族ではないのに、扶養控除の対象となるものとされているからといつて、同法に明文の規定のない事実上の子が扶養控除の対象となるものに当たるとする根拠とすることはできない。

6  なお、原告は、児童福祉法五六条によれば、保育料は扶養義務者から徴収することとなつているところ、杉並区立の保育園に通園している心の保育料について、杉並区長は、早苗と原告の所得税額を合算して決定しており、早苗の事実上の配偶者(事実上の夫で心の事実上の父)である原告に法律上の扶養義務があることが前提とされているから、扶養控除の対象となる親族には事実上の子も含まれる旨主張するが、杉並区長が原告主張のような取扱いをしているとしても、この取扱いは、法律上の扶養義務者である早苗の費用負担能力を判定するという観点から、早苗と同一生計を営んでいる原告の所得をも考慮したものと解することができ、この取扱いをもつて、所得税法上、事実上の子を扶養控除の対象となるものに当たるとする根拠とはなし難い。

また、原告は、国際人権規約A規約一〇条1、3、国際人権B規約二三条1、二四条1並びに女子差別撤廃条約一六条1d等の規定ないしその趣旨を挙げて、事実上の子は、扶養控除の対象とすべきであると主張するが、右各規定は、そもそも租税に関するものではないし、また、租税における扶養控除の取扱いにおいて、事実上の親族を法律上の親族と区別して取り扱うことを禁止したものとは解されない。

7  そして、事実上の子を所得税法上の親族(すなわち法律上の親族)とすべき特段の事情は本件全証拠によるもこれを認めることができないから、同法は、事実上の子を、親族に当たらないものとしていると解される。

8  更に、原告は、所得税法の解釈上、事実上の子が扶養控除の対象となる親族に当たらないと解されるとすれば、その限りで、所得税法八四条は憲法一四条に違反する旨主張している。

しかしながら、民法は、親族、実子及び養子について、それに関する規定を置き、法律上の子を事実上の子と区別する態度を維持していること、しかも、事実上の子を法律上の子とするについて、民法上、親の婚姻、子の認知及び養子縁組の届出といつた手続が認められ、その手続をするにつきさほどの困難性は認められないこと、身分法の分野における解釈においても、事実上の子を法律上の子に準じて取り扱うものとはしつつ、なお、両者の間に有意な差異の存在が肯認されていること(前記3参照)が認められるところである。そして、所得税法の所得控除の要件は、法律で明確に定めることを要するものであり、しかも、それを定めるについて、立法府の裁量的判断にゆだねられ、裁判所は、その裁量的判断が著るしく不合理であることが明らかでない限り、それを尊重せざるを得ないところ、右に述べた点などを勘案すると、所得税法の扶養控除の制度が家族の最低限度の生活を維持するのに必要な部分は担税力を持たないという考慮に基づくものであるとしても、所得税法が、扶養控除の対象となる親族を法律上の親族に限定し、これに事実上の子を含まないこととしていることをもつて、著しく不合理であるとまではいえず、なお、立法府の裁量の範囲内のものというべきであるから、原告の憲法一四条違反の主張は採用することができない。

9  以上によれば、扶養控除の対象となる親族には、事実上の子は含まないというほかはない。しかるところ、三人の子が事実上の子であることは、前述のとおり、原告の自認するところであるから、三人の子が原告の所得税につき扶養控除の対象となる親族に含まれないことは明らかである。

三右一及び二によれば、原告の昭和五七年ないし昭和五九年分の課税総所得金額は、別表一ないし三の順号2の項の③の欄記載のとおりとなり、これに対する税額は同項の④の欄記載のとおりとなるから、右と同額の本件各更正は適法である。

また、別表三の確定申告及び更正・賦課決定の項の④の欄記載のとおり、原告の昭和五九年分の所得税について更正の税額と確定申告の税額との差額は一四万円(国税通則法一一八条三項により、一万円未満切捨てたもの)であつて、同法六五条一項により、これに一〇〇分の五を乗じた七〇〇〇円が過少申告加算税となるから、右と同額の本件決定は適法である。

四よつて、原告の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官鈴木康之 裁判官太田幸夫 裁判官加藤就一)

別表一ないし三<省略>

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